私は繁殖には、人工授精を奨めています その理由(わけ)などについては「私のヤギ飼い記」の12項に書きました。そこで、ここでは純粋に技術的なお話しだけさせていただきます。
まず質問への答えは「いえ、難しくはありません 誰でもできますので、是非チャレンジしてください」になります。人工授精の処置だけで言えば、本当に数分で簡単に終わってしまいます。「簡易法」というやり方が開発され、これで随分楽になりました。作業もそうだし、準備する道具なども簡単なものです。
私が発情の季節をどのように迎えるか、からお話ししましょう。
家畜改良センタ長野支場から毎年、ヤギ精液の配布が公募されます。あらかじめ種オスのカタログが公開されるので、どのメスにどのオスの精液を授精させるか検討します。具体的には双方の血統を照合し、近親交配の恐れがないかチェックします。ないものの中から、お好みでマッチングします。ご自分のメスヤギの血統が不明な場合はチェック無用ですが、いずれどのオスにするかを決めておいた方が良いでしょう。
次に精液を取り寄せます。冷蔵扱いでクロネコヤマトが運んできます。賞味期限の短い生もののようなものですから、いつ取り寄せるかが非常に重要です。
ヤギの発情は分かり易いのですが、その正しい見極めが最初の関門です。例えばヤギAに発情が訪れたとしましょう。9月15日としておきましょうか。これを記録します。この最初の発情は見逃します。
発情周期は21日平均。そのとおりだとすれば次は10月6日の筈です。そこに間に合わせるよう精子を手配します。この場合、私は10月5日の着便で手配します。20日周期で発情が来る場合があるからです。
私の精液保管の工夫を披露します。真空断熱2重構造のステンレス製タンブラーに、たっぷり水を含ませたオアシスを隙間なく充填します。オアシスとは、フローラルフォームという花等を長持ちさせるための給水スポンジのことです。あらかじめ冷蔵庫内で3-4℃までタンブラーごと冷やしておきます。精液が届きましたら、試験管ごと、このオアシスに差し込んで保管します。振動と光、温度変化から精液の劣化を防ぎます。この方式を採用してから受胎率は画期的に上昇しました。
予定どおり発情が来ましたら、膣内に精液を注入する、それで人工授精の処置は終わります。必要なものはシース管と注射筒(10ccのシリンジ)、アル綿だけです。処置はヤギ舎の柱にメスヤギをつないで行います。シリンジにシース管を挿入して口にくわえ、アル綿とタンブラーを手にもってそこまで行きます。試験管に入った精液はタンブラーに差し込んだまま運びます。試験管内に水気が入らないように注意してください(急速に劣化します)。
発情は40-48時間続きます。そして、後半の方が受胎する可能性が高いのです。ですから、発情が来たからと焦る必要はまったくありません。朝みつけたら、その日の夕方に1回目、翌朝2回目。3回分が1ロットで届きますが、私はこの2回で行います。受胎率は90%程度(一般的には60%)です。
次の発情日に上手くいったかどうかをチェックします。発情が再来しなければ、無事に受胎したと判断(ノーリターン法と云います)ですし、発情が来てしまったら、また人工授精します。つまり、このタイミングでも精液を取り寄せます。
このチェックの日は、何年経験してもドキドキします。朝、牧場に近づいて、発情特有の騒がしい啼き声が聞こえると、やれやれ駄目だったか、となるわけです。
稀に19日周期で来られると精液の手配が間に合いません。このように発情日の見込み違いは分かり易い失敗の要因ですが、完璧なタイミングで上手くいったと思っても外れることがあります。受胎率を上げたいので、いろいろ分析したいところですが、良く分かりません。生殖は「神秘」なものです。
Copyright © 2016 Farmer's Ristorante herberry All Rights Reserved.