駆虫に関しては、各牧場の環境や規模、考え方によって対応に違いがあります 従って、以下は、私の牧場のケースということでご了解ください 一番良いのは、家畜保健所の防疫担当の専門家に牧場の実情を伝え、どのような内部寄生虫対策が望ましいのか、相談してみることです 私はそのようにし、結果、駆虫を行っていません
一般的に、「ヤギを正しく飼う=駆虫する=安全安心」という風に想いがちですが、それは違います 駆虫は、しないで済むならそれに越したことはないのです 内部寄生虫の病状を発生させてしまう事態を招くよりは駆虫した方が良いという考えもあるし、オーシストなどは目に見えないので、人は薬を使うことで安心を得ようとします しかし、自然の摂理や病理はそんなに単純なものでありません
現在、下痢などの症状があって内部寄生虫の害の恐れが高いので駆虫しようとしているのか、健康な状態で予防のために駆虫しようとしているのか
前者であれば、まずは糞便検査を行い、ヤギの体内の状態、つまりどういう寄生虫にどれだけ侵されているかを検査し、客観的な事実を掴んでください その上でその症状に応じた駆虫を行います これはもう病変が生じている状態ですから、治療し、駆除しなければなりません 具体的には獣医さんと相談してください
後者は意見が分かれます 駆虫剤の乱用は避けるべきですが、必要と判断されるなら処方する、という玉虫色の言い方になります
内部寄生虫に宿られ易い環境や飼い方であれば、また、ある特定の個体の症状が全頭に広がることはなんとしても避けたい、ということであれば駆虫した方が良い そうでなければ、ヤギにとって好ましくないだけでなく、寄生虫が薬剤への対抗性をつけることにもつながるのでしない方が良い、ということです
私はエプリネックストピカルという駆虫剤を、蚊が少なくなる時期、秋に1度だけ使用します 牛に寄生した指状糸状虫が蚊を媒介して感染し腰麻痺という病気をもたらすものです 私の牧場に直近の牛牧場は10kmほども離れていますが、蚊の飛来が絶対にないとは言い切れないという念のための処置で、乱用を避けるため年に1度のみにしています ただこの指状糸状虫は、他の内部寄生虫と感染ルートが異なり、つまり駆虫への考え方もまったく違いますので、理解の混乱を避け得るため、ここではこれ以上のことを割愛します(FAQ604をご覧ください)
まずは寄生虫の生態や感染経路のことなどを勉強しましょう
1. 条虫、線虫、回虫、捻転胃虫、コクシジウムなどの寄生虫は、すべて自然界に常在している生き物です 土中に卵や幼虫がいて、野生動物などに寄宿して生き延びています この卵などが草に付着したり、幼虫が草叢の葉をよじのぼり、放牧したヤギの採草とともに経口して躯の中に入り、感染します ヤギの体内で成虫化すると卵を産み、これが糞とともに排出され、また草叢に入り、これを他のヤギが食べると感染が広がります 寄生虫の活動は草叢が湿っている状態で活発化します つまり朝露の時間や雨後、じっとりした時期など 普段、青草を良く食べ、またその採草地に雨後など、いつでもヤギが入り込めるような環境では寄生のリスクが高まると云えます 多頭飼いの場合もリスクは高まります
大事なことは、自然界に常在しているものなので、健康にみえるヤギの体内にも大なり小なり存在している可能性が高い、ということです
それでは何故発症するものとそうでない健常なものとが違いが出るのでしょうか
ひとつは汚染の程度 たくさんの寄生虫が体内に入れば、発症の恐れは高まります 衛生の程度が悪い環境ではすべてのヤギが罹ってしまう、ということもあります
たとえ、割合少ない寄生虫であったとしても、ヤギの体力が落ち、免疫がない状態では発症してしまいます つまり、同じように飼っていても罹るものと罹らないものがいるわけです
2. 駆虫剤の効果を正しく知りましょう 駆虫剤によって駆虫されるのは、そのときに体内にいる寄生虫です その後、体内に入り込んだ寄生虫には効きません 体内にある卵や子虫を早めに駆除し、成虫になって悪さを働くのを防ぐという意味合いで予防と云えますが、抗体を作って寄生虫を防いでいく、というような予防効果はありません インフルエンザや新型コロナなどのウィルスの予防注射を打つこととの違いを理解してください
そのため駆虫は定期的に繰り返すことが必要です しかし、そうすると薬に対する抵抗性を帯びる寄生虫に変異していくため、薬が効かなくなってしまうという悪循環が生じます
3.駆虫の仕方についても注意が必要
駆虫剤を飲ませると体内にいる寄生虫の卵などが糞とともに排出されますが、これが放牧地で生き延びて、かえって寄生虫を蔓延させてしまうことがあります つまり、駆虫後2-3日は舎内飼いし、敷料などは廃棄、若しくは殺菌することが大事になります
4.糞便検査によって寄生虫にどれだけ侵されているかを検査する手立てはありますが、健康な状態の糞便からは検出できないことが殆どです
ただ、糞便検査は寄生中の有無だけに行われるものではなく、潜んでいる疾患がみつかる場合もあります 人の健康診断同様、健康体であることを確認し、安心する意味合いを含めて、定期的に行いましょう
寄生虫の診断が出た場合は、その種類と卵の数が分かるので、この結果に基づいて駆虫プログラムを組み立てます
これには獣医の協力が必要になります
私の牧場は小規模である利点を活かして、衛生管理と個体ごとの栄養・運動・ノーストレスを徹底しています パドックの土壌は砂地が剥き出しになっており、砂地ですから水はけが良く乾燥状態が保たれます パドックに隣接して採草地がありますが、広大ではなく、乾草主体の飼い方です また、この採草地には扉を設けており、雨後など、湿った状態では開放しません 寄生虫が誰かに宿っても毎朝夕に糞を除去しているので、感染が広がることはありません このようにして、薬剤に頼らないこと、つまりは駆虫しないことを続けています そして、長年、問題も生じていません
なお、敷料を交換し、床底を洗浄した後の消毒は、逆性せっけん(パコマなど)ではなく、オルソ剤の方が効果があります トライキルという製品があります 私は、ヤギ小屋に落ちた糞は朝夕に除去しますが、敷料は2週間、長くて1ヶ月ごとに全交換します 流水で洗浄・乾燥した後に200倍に希釈したトライキルを噴霧し、新しいモミガラを敷きます トライキルは使用後、強い刺激臭の残留が1週間ほど続きます しばらく換気に留意しましょう 冬場は土地柄、洗浄・乾燥の工程を省き、またヤギ小屋にいつもヤギが居て空けることができなくなるため、消毒もできないことがあります 小屋への在住率が高いので、汚れ度合いも冬の方がよろしくない状態です 低温で細菌の増殖が抑えられるであろうことが救いです その分、頻繁な交換を心がけています
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