失敗談をお話しします。
なにごともやってみて、いくつかの失敗を経験してこそ、習熟していきます。しかし、生き物での「失敗」は、相当心に痛みが走ります。
前々項で「病変や事故をほとんど経験していない」「飼い主ができることは、基本的な知識のもとに、病変を発生させない飼い方をすることであり、予防すること」などと偉そうなことを申しましたが、飼い始めの頃、初歩的なミスでお産を失敗し、母子ともに亡くす、という手痛い失敗をしています。今でもときどき思い出します。
予定日を1週間ほど経過しても陣痛らしきものがなく、獣医に診てもらったところ、赤ん坊が胎内で死産のままとどまっており、このままでは母ヤギも危ないとのこと。慌てて病院まで移送し、緊急の帝王切開を行いましたが、時遅く、母ヤギの命まで落としてしまいました。
思い起こせば、ああ、あのときに、という場面がいくつかあります。予定日の数日前、赤ん坊の鼻先が少し見え隠れすることがありました。もう少し注意深く観察し、ひっかかっているようなら引き出すなどの処置をすれば大丈夫だったでしょう。予定日を過ぎた頃には、きっと力が尽きて亡くなっていたのだと想われます。早めに獣医さんに相談していれば、少なくとも母ヤギは助かっていた筈。漫然と見過ごしてしまいました。正直に言えば、獣医代を惜しむ気持ちもありました。その卑小さが逡巡をもたらした、という情けない気分、それが後悔に輪をかけました。ヤギを飼う資格はない、と自分を責めました。
好きで飼い始めたヤギの命を、自分のミスで落としてしまった、あるいは怪我をさせてしまった。これは、どうにも慰めようがありません。悲しんで後悔するしかないのかもしれません。時薬(ときぐすり)が必要でした。
過失を完璧に防ぐことなどできないとしても、出来うる限りの準備で臨み、知識や知見を修得しておくことが大切です。その上での失敗は、貴重な教訓につながります。
私の牧場で、その後、病変や事故がほとんど起きていないことは事実です。それに慢心してはいけないと自分に言い聞かせています。具体的には、毎日の作業に手を抜かないこと、観察すること、そして自分はいまだヤギを十分には知らない、という自覚です。
ヤギのことはヤギたちから教わった、とつくづく思います。
<無事の出産>
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