最近、グラスフェッドという言葉を耳にすることが多くなりました。
ヤギは、そもそも草を食べて生きている(Grass-fed)動物なのだから、泌乳量を上げるがために穀物を給与する(Grain-fed)のは生理に反する、やめようというものです。グラスフェッドミルクは栄養的にも優れていることが分かっています。
より安心で安全なもの、そしてエシカルなものへと、食品に求める消費者の指向も変遷しています。ただ、だからヤギをグラスフェッドで育てるべきとは一概になりません。
ヤギと栄養のことを書きます。
前項で“私の飼い方で特異的にこだわるのは衛生で、あとは凡庸”と云いました。そのとおりで、餌は乾草と青草、配合飼料で野菜や果物の残渣が少し、栄養や食欲を増強するサプリメントなどは与えていません。しかし、それは無頓着ということではなく、むしろこの終わりのない「栄養」という旅路をさまよっている感じです。
例えば、グラスフェッドで良いヤギを育てるためには、それを支えるだけの広大な採草地が必要です。かつ、その採草地に栄養の豊かな草が潤沢にあることが求められます。その支えが十分ではない土地で、グラスフェッドで育てると量と質の両方に劣るミルクしか採れなくなります。
ヤギを飼う方すべてがお乳を搾るわけではありません。コンパニオンとして繁殖しないで成体を維持するレベルで十分な場合があります。繁殖するにしても子ヤギが育ってくれれば良いのか、それとも人用にも搾乳するのか、それは自家消費で良いのか、チーズ等にして販売もしたいのか、ヤギに何を期待するかによって必要な栄養は大きく変わります。つなぎ飼いなのか、放牧地を自由に駆け回れるのか、そういう運動条件によっても必要な栄養は異なります。
乾草、青草、配合飼料、その他の餌。これをどういう配分でどれだけの量をあげれば良いのか。乾草と云ってもいろいろあります。オーツヘイやチモシー、オーチャードグラス、アルファルファといった種類、一番草、二番草、三番草。同じ一番草でも畑の場所による太さや柔らかさの違い。それぞれ栄養価も違えば、ヤギの嗜好も異なります。
青草はもっと多彩です。野に放ったヤギが、草木の葉や実を含め、どういうものをどれくらい補給しているのかを測定することはできません。
私の牧場は干し草(一番草)がベースです。飽食できるようにしています。春から秋にかけては放牧場で牧草を食んだり、野山から私が採取してくる青草もたっぷり与えます。イタドリやヨモギ、ニセアカシア、桑、山桜といったものです。農家の方からいただく芋のつるやリンゴ等果樹の剪定枝なども好物です。
搾乳期間を中心に、配合飼料も給与します。
ヤギは、本来の子育てに必要なミルクの量以上を泌乳するよう進化した動物です。野生でいるときよりも、長い期間、たくさん泌乳しますので、その分、多くの栄養が必要になります。それを補うという考えであって、搾乳量を上げるのが目的ではありません。過剰な給与は消化器系の病気が心配されるので控えています。母体にも十分な栄養が行き渡るように適量を与えるということです。
栄養を科学的に推し量る手段として、TDNやCPという指標があります。TDNとは可消化養分総量のこと、CPが粗タンパク質のことです。この数値によって食事内容のバランスが分かると云います。酪農家の方は、きめ細かく栄養管理を行い、牛乳の量や質をコントロールします。残念ながら、私にはそういう知識がないので、参考にする程度です。
全国山羊ネットワークが「山羊飼料計算プログラム」を開発中です。飼料基準の目安になるものができればありがたいことです。
現状では、日頃の観察を大事にしています。食べ具合やフンの様子、太り具合など。日常の様子で配合飼料の量等を個体ごとに微調整しています。BCS(FAQ.201項)参照。
離乳前後の子ヤギは、成体のヤギとは栄養を消化するメカニズムが異なるので、栄養のつけ方も違います。草を十分分解できる消化器官を育てる大事な期間になります。体重や月齢から適正な給与量などを計算して与えることになります。ここでは、これ以上の説明を省きますが、ヤギに与える「餌」が終わりのない旅であると納得いただけたと思います。
「グラスフェッド」が神話になれば、人間の側の思い込みが主人公になってしまいます。大事なことは「主役はヤギだよ」ということです。
<夢中で食べる>
<干し草、頬張る>
Copyright © 2016 Farmer's Ristorante herberry All Rights Reserved.